気仙沼スポーツツーリズム

漁業を支える老舗箱屋の藤田一平さんが仕掛ける“三方良し”なトランポリンパークがつくる気仙沼の未来

2018年、気仙沼に東北初のトランポリンパーク「F-BOX」がグランドオープンしました。

F-BOXはカツオの水揚げ量日本一を誇る魚市場のすぐそばにあり、周りには水産加工会社や漁業に関わる会社がひしめいています。

そのようなエリアにトランポリンパークがあることを不思議に思う方も多いのではないでしょうか?

しかし、それもそのはずF-BOXを仕掛けるのは、発泡スチロール製の魚箱といった包装資材を扱う「藤田製函店(せいかんてん)」の4代目・藤田一平さん。

地域では箱屋さんと呼ばれている会社が、畑違いとも思われるトランポリンパークを立ち上げたと聞くと少し唐突な気がしますが、今、気仙沼にトランポリンパークがあることは必然的であると言えます。
その理由をトランポリンパークと箱屋さんの関係や、トランポリンパークが気仙沼にもたらしている影響を紐解きながらお伝えできればと思います。

[text&photo:平田和佳]

「当たり前の風景」を変えたトランポリン

気仙沼のために何かしたいっていう僕個人の想いと、会社として何かしなければいけないという課題、気仙沼で子供たちが体を動かして遊べる場所がないという地域の課題の3つ結びつけてやったのがこのトランポリンパークです。なので、別に変わったことやりたいと思ったわけではなく、やった結果がそうだっただけなんです。

震災をきっかけに自身の気仙沼への想いが深いことに気づいたという一平さん。

「気仙沼のために何かしたい」と漠然と思い続けていた気持ちが一層強くなった頃に経営者向けの人材育成塾に通ったことをきっかけに、一気に一平さんの想いがカタチになっていきます。

一平さんが市の復興創生アンケートを元に着目したのは、“余暇や娯楽が少ない”という課題。その課題に対して、箱屋のリソースとして出てきたものは「倉庫」でした。


倉庫を改装してできたトランポリンパーク

高さ8メートルもある倉庫は、漁が盛んな6月から11月は魚箱で埋まるのですが、それ以外の時期は空っぽになるといった特徴を持っていました。空っぽの時期に音楽のレンタルスペースやクライミングとして活用しようと考えてみたそうですが、どれも会社でやるにはしっくりこないと感じていたそうです。

「トランポリンはどうか?」とアイデアが出てきたときは、「何言ってんの?」と思いました。でも、自分がやったことないことを判断するのは良くないなと思い、試しに行ってみたんです。そしたらすごく面白くて!

試しに行ったところの天井が低かったんです。私は身長高いので、立っただけでも2.8mとかになっちゃって。そこで1mの跳躍をやるとなると、手を挙げるともう天井に手がついちゃうんですよね。そこで、楽しく飛んでいるのに何だか窮屈だなって思ったんです。

この経験から倉庫の見え方がガラッと変わります。

平屋建てで遮るものがなく高さのある倉庫は、トランポリンを行う場としては最適で、箱屋としてはありふれた倉庫でしたが、他業種では珍しく、建てるにも借りるにも難しい建物であるということに気づきます。

また、上手い下手も関係なく、大人も子どももただ飛ぶだけで楽しいトランポリンに一平さんは一瞬で虜になったと言います。それに加えて、トランポリンは短い時間で驚くべき運動量があること、トランポリンでしか身に付けられない空中感覚や空中運動、体幹を鍛えることができることなど、成長期の子どもたちにはうってつけのスポーツであることもわかりました。

ここで、体の基礎を作りながら身体機能を支えるトランポリンが、水産業の下支えをしている箱屋と重なったのです。

気仙沼でトランポリンを受け入れてもらうために


ずらりと資材が置かれた倉庫の一角で、トランポリンを実験的に始めた頃の様子(写真提供:藤田一平)

まずは、就業時間内で倉庫に小さなトランポリンを設置して無料開放するところから一平さんは始めます。そこから、土日にもイベントで出店してみたりと試行錯誤を繰り返し、トランポリンのニーズを探っていきました。満を辞して、2018年に設備を整えて期間限定での営業を開始し、2019年には年間営業に漕ぎ着けます。

着実に歩みを進める一方でこんな不安もあったそうです。

トランポリンで遊ぶという文化が全くない東北にトランポリンを持ってきた時に、“気仙沼の人に受け入れてもらえるか”だけが本当に心配でした。また、本当にその良さを伝えられるんだろうかと。

一平さんの不安をよそに、F-BOXはオープンしてから絶えずお客様が訪れています。

私たちは気仙沼という小さい町で事業をしています。都会のように人口が多く、絶えず流動する場所のように新規のお客様をどんどん獲得するのではなく、同じお客さまに何度でも通っていただけるような工夫をしないといけません。

地域の方には何度来ても繰り返し楽しんでいただけるように。観光で訪れた方には気仙沼に来てよかったと思ってもらえるように丁寧な接客を心がけています。長期休暇になると帰省する方の来店も多く、この場所があって良かったとお褒めの言葉を頂くと改めて地域の役に立てて良かったと実感します。


子ども達で賑わうF-BOXの様子(写真提供:藤田一平)

また、F-BOXのスタッフは小学生全日本準チャンプだった元選手やトランポリン競技経験者ということで、トランポリンの魅力もたっぷりとお伝えできるスタッフだと一平さんは太鼓判を押します。

そんなスキルのあるスタッフもいたことが功を奏して、リピーターのお客様の声に応えた未就学児と小学生を対象にしたトランポリン教室が生まれました。さらに、子ども会の行事や地区の集まりの際には貸切りができるようにしたりと様々なサービスが生まれています。

着実にリピーターのお客様が増え、仙台に新店舗出店の兆しも見えた2020年。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、店舗は休業、新店舗は白紙になるなど大きな打撃を受けます。

そんな非常事態でも、一平さんは常にお客様のことを考え、どこよりも素早く感染対策を打ち出し、少しでも安心できる施設づくりに切り替えていきます。そんな2020年は感染防止に全力をあげ、人流の増加も助長しないように「是非うちに来てくださいとは一言も言わなかった1年だった」と振り返ります。

「独りよがりな事業になってはいけない」とも話してくれた一平さんの言葉からは、コロナ禍を乗り越え、これからも気仙沼にトランポリンパークがあり続ける未来を感じさせてくれました。

トランポリンが気仙沼を知るきっかけに


マルシェに出店し、様々なお店とともに気仙沼を楽しんでいただいている(写真提供:藤田一平)

一平さんは次々とトランポリンと様々なものを掛け合わせ、トランポリンを気仙沼になくてはならないものへと導きます。

気仙沼はありがたいことに漁業を基幹産業としながら観光業も基盤としてあるので、箱屋として観光の取り組みに参加していたことやそのつながりが、観光客の受け入れにつながっています。

F-BOXに寄っていただいた方に気仙沼の飲食店をオススメして他の施設も楽しんでもらうようにしています。当初は思ってもみませんでしたが、F-BOXを目当てに来てくれる市外の方達もいてくださり、従来はなかった層の人たちが気仙沼を訪れる機会が増えました。そうした人流が生み出されて関係人口が増える事は気仙沼人として本当にありがたいなと。

また、気仙沼にはスポーツごとにエキスパートがいっぱいいて、その方たちと敵対するつもりもないんです。トランポリンやったから違うスポーツやるなよってわけではなく、トランポリンをやっておくと先々役に立つよって。みんなの身体能力の底上げがトランポリンの立ち位置かなと思っています。

このような他の企業や団体との連携から、気仙沼を一層盛り上げています。

また、コロナ前までは大学生インターンの受け入れを行うことで、気仙沼では出会いづらい層のハブになるなどトランポリンパークの関わりしろは多岐に渡ります。

こうして、“余暇や娯楽が少ない”という課題に立ち向かうためのトランポリンパークは、今や様々なものが結びつきながら、より深い課題解決を行なっています。

ここでやることに対して、詰め込み過ぎちゃっていますかね。

でも、どんどん人口が減って、子どもが減っていく中では、今やらないと、色んな経験に触れられる子どもたち自体がいなくなってしまう。10年後にできますっていったって、その時には何人いなくなっているか。

だから、今、気仙沼にいる子どもたちにトランポリンパークでいろんな経験をしてもらって、大人になった時に気仙沼っていいところだなとか、気仙沼にこれがあるって自慢だなとふとした時にでも思ってもらえるように頑張らないとなと思っています。

今まではトランポリンは“地方では経験できないこと”でしたが、箱屋と気仙沼の強みを生かすことで“地方だからこそ経験できること”となり、子どもたちに新しい経験の提供ができるようになっています。

その経験をした子どもたちは、目をキラキラさせてトランポリンをしています。

華麗な技をどんどん身につけた子どもたちが、しばしば先生のように教えてくれることもありました。

一平さんの「気仙沼のために何かしたい」という想いから出会ったトランポリンは、箱屋の価値を再発見させてくれ、気仙沼の持つポテンシャルを存分に引き出してくれる存在でした。そして、これからもトランポリンパークは新しい価値や気仙沼にしかない価値を気づかせてくれることでしょう。

ぜひ、皆さんもトランポリンをきっかけに気仙沼の魅力も感じていただけると嬉しいです。そして何よりトランポリンをまだ経験したことがない方は、ぜひ一度遊びに来てみてください!

日常生活では絶対味わえない浮遊感や高さはなんとも言えない高揚感が味わえ、一平さんを一瞬で虜にしたのも頷けるはずです。

■人物紹介
藤田一平(ふじた いっぺい)さん
1933年創業の藤田製函店の専務で合同会社F-BOX代表。
視察プログラム「しごと場・あそび場ちょいのぞき気仙沼」にも2016年から参画し、観光にも力を注ぐ。2018年「トランポリンパークF-BOX」創業。6人兄弟の長男で4児の父。

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「トランポリンは自分一人でやっているわけじゃなくて、会社として、藤田製函店の延長でやっている」
その一平さんの想いは最初から全員が共有できていたわけではなく、最初は反対もありながらも、少しずつ共有でき、始めて1年経った頃には「今日は何人来ていたんですか?」「施設のここ、直しておきますね」と積極的に声をかけてくれるようになったそうです。また、箱屋でのお客様からも「もっとトランポリンに力入れていってもいいんじゃないの?」と声をかけられることで、会社と既存のお客様に認められたことは忘れられないと教えてくれました。