仙台で中華料理の名店「楽・食・健・美-KUROMORI-」のシェフとして腕をふるってきた黒森洋司さん。
黒森さんは、2023年3月に世界的美食ガイド『ゴ・エ・ミヨ 2023』に掲載され、「明日のグランシェフ賞」を受賞。さらに2024年11月には、農林水産省が顕彰する「第15回料理マスターズ」でシルバー賞を受賞するなど、国内外で高く評価されてきた経歴の持ち主です。
食材への探究心はとても深く、なかでも中華の高級食材であるフカヒレに関しては、部位ごとの特徴を見極めて扱い方に気を配り、フカヒレ料理の可能性を広げてきました。
そして2025年9月、ついにフカヒレの生産地である気仙沼に、フカヒレ料理専門店「気仙沼-KUROMORI-」をオープン。ご自身もこの街に移住し、新たな一歩を踏み出しました。
黒森さんをここまで動かしたものとは何だったのでしょうか。どんな思いで気仙沼にお店を開いたのか、お話を伺いました。
東京から仙台へ、そして気仙沼へ

黒森洋司さんは、神奈川県生まれ、北海道育ち。東京・西麻布の広東料理店で料理人としてのキャリアをスタートし、20代のうちから中華の名店で料理長としても経験を重ねてきました。
2011年の東日本大震災をきっかけに「中国料理をやっている人間として、地域に何かお手伝いできることはないか」と考え、宮城の地で、確かな技術と地元食材を活かした中国料理を追求し、着実にキャリアを重ねてきました。
この時期、仙台で10年間営んだ「楽・食・健・美-KUROMORI-」には、全国各地から「クロモリのフカヒレ」を目当てに訪れるお客様が増えていました。そんな中、黒森さんはふと、以前から抱いていたある思いを振り返ります。「フカヒレの産地である気仙沼で、フカヒレ料理を提供する店をやれないだろうか」と。
実際、気仙沼から訪れたお客様からも「気仙沼にも来てほしい」「フカヒレのお店を作ってほしい」と声をかけられることがあったそうです。「タイミングってあると思うんですけど、ある時ふと『やろう』って思ったんですよね」と黒森さん。こうして、気仙沼での新たな挑戦が動き始めました。
節目となる開業10年と「料理マスターズ シルバー賞」受賞のタイミングを機に、気仙沼での物件探しを開始。仙台との二店舗運営も検討しましたが、最終的に「中途半端に両方をやるより、気仙沼に全力を注いで、この街を盛り上げることに集中しようと思いました」と決意を固めました。
こうして、フカヒレの本場・気仙沼への移住と店舗オープンが決まり、順調だった仙台での営業に幕を下ろし、新たな挑戦に踏み出したのです。
気仙沼でしかできない、フカヒレの専門店
気仙沼のお店で提供されるのは、前菜からメインまで楽しめるフカヒレのフルコースです。「99%の人は『フカヒレ』は『フカヒレ』だと思っていると思いますけど、実際には部位ごとに全然違うんですよ」。コースを注文したお客さんには、部位ごとに札をつけたフカヒレの見本が出され、それぞれの特徴が説明されます。「全部フカヒレじゃないんです。牛肉でいうと、サガリやサロイン、ヒレがあるのと同じで、胸鰭、背鰭、尾鰭と種類があります。サメの種類でも、アオザメ、モウカカザメ、ヨシキザメと違いがあって、コラーゲンの量やヒレの大きさ、繊維の太さもそれぞれ違います」。
こうした違いに応じて、フカヒレの戻し方・調理法も変え、部位の個性を生かしながら一つのコースに仕上げるのがクロモリ流。仙台の店では中華のフルコースを提供していましたが、気仙沼の店では「わざわざフカヒレを食べに来る人がいる、この街だからこそ、フカヒレだけのフルコースが出せるんです」と黒森さんは話します。
さらに、コースでは、サメの種類やヒレの部位を示すイラストが添えられたメニューが渡されます。お客さんはそれを見ながら、サメの身の部分が練り物や加工品に使われていること、革がシャークレザーとして活用されていることなどを知ることができます。そういった背景を伝えることも、フカヒレ文化を次世代に残していくための大事な一歩です。
フカヒレの原料はすべて気仙沼港で水揚げされたもの。加工は地元の石渡商店が行い、店で提供されるまで気仙沼を出ることはありません。「この世界的に評価される高級食材が、地元で加工されて、最高の料理として提供されるのは奇跡のようなこと。地元の人にも、気仙沼にはすごい食材があるんだと知ってもらえたらうれしい」と黒森さんは話します。
これまでの全てがつながって、今がある
全国一位のサメの水揚げ量、フカヒレ生産量を誇る気仙沼でも、専門店として提供できる場所は、これまで気仙沼には存在しませんでした。そのため、今回のフカヒレ専門店の開店は「気仙沼の悲願」とも言われ、黒森さん自身も「やっとできた」と振り返ります。「気仙沼はサメの街なのに、専門店は一つもなかったんです。中華料理店やラーメン屋さんなどで少しずつ使われていると思いますが、フカヒレには知識と技術が必要で、戻し方や料理法、スープの取り方まで、全てを理解していないと扱えません」と黒森さん。
黒森さん自身、これまでの経験を経て、フカヒレの扱いや調理法を身につけてきました。そして数々の受賞をきっかけに「フカヒレのクロモリ」はより多くの人に知られる店になりました。黒森さんは「すべてがつながって、ここ気仙沼で専門店を開く意味が生まれたんです」と話します。
「この料理を食べに」世界中から人を呼ぶ
黒森さんが気仙沼で店を開いた大きな理由は、ずばり「フカヒレ」のため。
フカヒレを味わい、体験できるお店を作り上げること、そして、この料理を通じて人を気仙沼に呼ぶこと。東京や仙台よりも、あえて気仙沼へ。「わざわざ車を使って、一生に一度でも食べに行きたい」と思える料理を提供することで、アクセスの不便さは「非日常の体験」に変わります。
来店するお客さんが気仙沼で食事を楽しみ、観光をし、次の日には仙台でディナーを楽しむ……といった流れをつくることで、地域全体の活性化にもつながります。黒森さんにとってこの店は、気仙沼の食材と文化を未来に残すための入り口でもあるのです。
黒森さんは「ぜひ気仙沼に来て、フカヒレを味わい、魅力を体験してほしい」とメッセージを送ります。市外の皆さんも、地元の方もぜひ、気仙沼が誇るフカヒレの奥深さを「気仙沼-KUROMORI-」で味わってみてください。
神奈川県生まれ、北海道育ち。
西麻布の「香港ガーデン」で、香港出身の師匠から広東料理・広東点心を学ぶ。28歳で広東料理の名店「福臨門魚翅海鮮酒家(二子玉川店)」において、同グループ初の日本人料理長に就任。以後数店を渡り歩き、震災後の2011年「料理人としての復興支援」を模索しながら仙台に移住。
シンプルながらも食材の旨みを最大限に引き出した料理を目指す。
2018年第9回料理マスターズ ブロンズ賞を受賞。2023年3月「ゴ・エ・ミヨ 2023」掲載、「明日のグランシェフ賞」受賞。
2025年9月に宮城県気仙沼市でフカヒレ料理専門店「気仙沼-KUROMORI-」をオープン。
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