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初詣で会いたい!可愛い狛犬めぐり

みなさん、こんにちは!私は気仙沼にある「リアス・アーク美術館」で学芸員をしている萱岡雅光です。
これまで、気仙沼の歴史や文化について記事を書いてきました。
過去の記事についてはこちらからご覧ください。

今回のテーマは……

2024年も残りわずか。今年もあっという間に過ぎていきましたね。年末年始に神社やお寺に参拝するという方も多いことでしょう。そこで皆さんを出迎えてくれる生き物がいますよね。

▲御崎神社(唐桑)の狛犬

そう(?)、狛犬さんです!

実は気仙沼には個性的な狛犬さんが多いのです。今回はその中から私の推し狛犬をご紹介します。この記事を読むと初詣がちょっと楽しくなるかも!?

「狛犬って何だっけ?」

先に狛犬を「生き物」と書きましたが、狛犬は想像上の霊獣です。通常、狛犬は2体1組ですが、本来は獅子と狛犬の組み合わせで、それぞれ別のもの。それをいつしかまとめて「狛犬」と呼ぶようになりました。 獅子・狛犬のルーツや変遷を調べていくとむちゃくちゃ面白いのですが、長くなるので今回は割愛します。現在、私達がよく目にする狛犬の多くは寺社の聖域に悪いものが侵入しないよう、威厳のあるお顔で、睨みを効かせてしっかりと見張っています。

▲これぞ狛犬!魔物も逃げ出す恐ろしい顔である。(唐桑・早馬神社

しかし気仙沼では威厳というより、むしろどこか愛嬌を感じるような可愛くて個性的な狛犬にたまに出会えます。例えば、次の狛犬は琴平神社(階上)の狛犬です。

▲満面の笑み。歓迎されている感はあるが、これで魔物を追い払えるのだろうか……?
▲鼻の人間っぽさがすごい。まるで人面犬?不思議な顔。
▲頭が大きく、どことなく「ゆるキャラ」らしさを感じてしまう。尻尾も可愛い。

この狛犬は、私が気仙沼の狛犬に興味を持つきっかけとなった狛犬です。初めて見た時、「んんん?狛犬って何だっけ?」となったのを今でもはっきりと覚えています。琴平神社にはもう一対、古い狛犬がおり、こちらも実に個性的。なお琴平神社のある岩井崎は絶好の初日の出スポットとして有名です。初日の出イベントも開催予定とのこと。ぜひ初日の出を見てから琴平神社にも立ち寄り、初詣と一緒に狛犬達にも挨拶してあげてください!

気仙沼市内の初日の出スポット2025

ちょっとユルくて可愛い狛犬たち

これまで気仙沼の寺社を訪れる中で、他にも個性的な狛犬に出会うことが度々ありました。
まずは、八幡神社(鹿折)の狛犬。

▲顔と体のバランスが美しい
▲全体的にまん丸なフォルムに垂れたお耳がチャームポイント♪
▲相方もニンマリ。思わずこっちもニヤニヤしてしまう。

次は、八幡神社(唐桑・舘地区)の狛犬。

▲しゃくれ気味の笑顔。アゴが割れている?「へっへっへ」と笑っていそう。
▲こちらは耳の形も相まって、お猿さんに見えてくる

子どもが可愛い!親子狛犬たち

個性派狛犬の中には、子を抱いているパターンがあります。親が子の頭に足を置いている狛犬や、子が親の体に掴まっている狛犬(本記事最初の写真参照)は少なくありませんが、両前足の間に抱きこんでいる造形は特徴的。しかも、子どもが楽しそう。仲良し親子で、見ていると癒されます。

例えば、北野神社(八瀬)の狛犬。

▲子もニンマリ。散歩中の子犬と目があったような感覚を覚える。

次は、五十鈴神社(魚町)の親子狛犬。

▲個人的にお気に入りの狛犬
▲お子さんは玉遊びに夢中のようです

五十鈴神社は美しい内湾を望むことができ、初日の出スポットとしてもおススメ。元旦の午前中には温かい飲み物の販売もあるそう。初詣にぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

ここまで紹介してきた狛犬と同じ作風のモルタル製狛犬が他にも市内に散見されます。調べてみると、これらは昭和期に活躍した左官職人、村上万三郎の制作らしいということが分かってきました。狛犬と一口に言っても、大量生産型の狛犬もあれば、このような職人の個性が発揮された狛犬もあり、実に多様なのです。そして歴史の中でまれに優れた職人が現れ、周囲にも影響を与え、それがやがて一つの地域類型を生み出すことがあります。

気仙沼の誇り!幕末の名工 日野友輔

幕末、気仙沼に天才的な石工職人がいました。その名も日野友輔(1809‐1883)。彼の作った優れた狛犬は後世の狛犬の作風にも影響を与え、明治大学教授の川野明正氏の論文によれば、「友輔型」と分類できる狛犬は、気仙沼市内に留まらず岩手県沿岸部にも分布しているとのことです。

日野友輔は狛犬以外にもお地蔵さんや石碑などの様々な石造物を、気仙沼や岩手県南部の寺社に残しています。

友輔の代表作は、鹽竈神社(塩竈市)の2対の狛犬です。仙台藩でも特に格式高い鹽竈神社に奉納する狛犬の制作を2度も依頼されるくらいですから、その技術は当時から高く評価されていたはずです。

▲文久3(1863)年。東神門をくぐった場所にある。台座の装飾も美しい。

鹽竈神社の友輔狛犬は狛犬ファンの間でも大変有名です。安定感のあるバランスの取れたフォルムと、美しくも主張しすぎない上品な装飾。力強くはっきりとの残る彫り。これ以上足すことも引くことも全く出来ない、極めて完成度の高い狛犬です。

▲文久2(1862)年。裏参道の途中にある。彫りの保存状態が驚くほど良い。

江戸の一流職人が作った狛犬と言われても全く違和感がありません。これほど質の高い狛犬が地方の、それも気仙沼の職人の手によって生み出されたことは、誇るべきことではないでしょうか。

▲台座に「気仙沼 石工 友助(輔)」の銘がはっきりと見えます。

読者の皆さんは「うわ、なんだコイツ、急に語りだしたな」と若干引いたかもしれませんが笑、もう少しお付き合いください。

気仙沼市内でも、友輔作の狛犬を見ることができます。観音寺(本町)には嘉永7(1854)年奉納の狛犬が静かに佇んでいます(↓)。

▲友輔の狛犬は背中も美しい。三日町・八日町の人達が合同で奉納したようだ。
▲バランスの取れたプロポーションに洗礼された頭部の造形。これぞ友輔の狛犬である。

この観音寺狛犬を模範にして後世に作られたと考えられる狛犬が市内に点在しています。市外の例だと、陸前高田市の氷上神社の拝殿に友輔作の狛犬が安置されており、また友輔の影響を受け後世にモルタルで制作された狛犬(↓)が参道にいます。この狛犬も味わい深いです。

▲氷上神社参道の狛犬。土下座して謝っているように見える…。

なお先に紹介した村上万三郎のモルタル製狛犬が友輔の影響をどの程度受けているかどうかは、現在調査中です。

まだまだある!会ってほしい狛犬たち

これまでは特定の職人に注目して狛犬を紹介してきましたが、他にも個性あふれる狛犬がまだまだあります。例えば初詣やどんと祭で有名な、唐桑の御崎神社では冒頭で紹介した拝殿前の狛犬が目立ちますが、参道の階段を登り切ったところに特徴的な狛犬がいます。また、大島神社(大島)には「なで狛犬」(↓)がおり、体の悪いところをなでると、ご利益があるとのこと。

▲よく見ると、撫でてもらえて嬉しそうな顔にも見える。存分に撫でたい。見る角度や光の当たり具合によって表情が全く変わって見えるのも狛犬の魅力の一つ。

おわりに

いかがだったでしょうか?ぜひ初詣の際は、狛犬にも注目してみてください。最初は「可愛い狛犬を紹介する軽い内容にしようかなぁ」くらいに思っていたのですが、いざ調べ始めてみると…。いやぁ、もう、完全に「沼」でした…。他にも紹介したい狛犬がまだまだあり、調査も続けていく予定なので、いつかまた別の機会に。

それではまた次回の記事でお会いしましょう!最後まで読んでいただき、ありがとうございました。2025年もよろしくお願いします!

※本記事作成にあたり、関連資料を寄贈いただいた庄司多賀雄様、気仙沼市教育委員会の幡野様に御礼申し上げます。また、川野明正先生の論文「石造狛犬の類型と分布に関する野外調査を主とした網羅的研究 -岩手県の石造狛犬を事例として‐」、およびSNSコミュニティ「狛犬さがし隊」の情報も参考にさせていただきました。

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