新海誠監督舞台挨拶レポート

映画『すずめの戸締まり』気仙沼プレミアム上映会

おすすめ 2023/06/02

国内のみならず、海外でも大ヒットを記録した映画『すずめの戸締まり』は、2022年11月11日から2023年5月27日にかけ、198日間の日本の映画館での上映が終了しました。上映終了の翌日となる5月28日、最後となる「気仙沼プレミアム上映会」が気仙沼市民会館にて開催され、新海誠監督の舞台挨拶も行われました。

きっかけは、映画館のない気仙沼で、映画上映会を企画運営している市民有志団体「ホタルの会」の会長から、新海監督へ1通の熱いメッセージが送られたことでした。それに応える形で、新海監督の来訪が実現。さらに、1回の上映のところ、来場者の多さに急きょ追加上映が決定し、舞台挨拶も2回行われました。
作品を通じた被災地への想い、印象的なシーンのディティールについてなど、来場者との質疑応答を交えた形式で新海監督にお答えいただいた内容を、この記事でお伝えしていきます。

※以下、作品の内容に触れる記述があります。未視聴の方はご留意くださいますようお願いいたします。

今回の上映にあたって


新海監督:この上映が実現したこと、最終上映となる、いわば“最後の戸締まり”を気仙沼でできるというのは、映画にとって幸せなことだと思いました。今日は、作品に登場する芹澤くん(主人公と東北へ向かう車を運転する)とほとんど同じルート、三陸道を通って気仙沼にやってきました。気仙沼に来るのは2年前のロケハンぶりです。この会場からも近い「ホテル磯村」に宿泊し、スタッフとともに美味しい魚を食べながらロケハンしたのを懐かしく思い出しました。

気仙沼の印象について

新海監督:気仙沼は震災後の姿しか知らないので、震災前の姿も見てみたかったと思います。気仙沼はとても有名なところなので、ロケハンで来る前にもいろんな方から気仙沼の話を聞く機会がありました。気仙沼のホタテを知り合いによくいただいていたり、娘が気仙沼へ来たこともあったので、身近な雰囲気を感じていました。

映画を通して、東日本大震災を伝える


新海監督:この映画は東日本大震災を物語のベースにしています。海外の人に見ていただいたとき、どこまで伝わるか心配していましたが「日本映画の中で海外で一番ヒットした」という結果を受け、作って良かったと思いました。
海外で上映した後、いつも「東日本大震災のことを知っていますか?」という質問をするんです。そうすると3割くらいの方が手を挙げる一方、半数以上の方は知らないと答えます。こんなにたくさんの人が知っているんだと驚く一方で、知らない人もこんなにたくさんいるんだな、とも思いました。映画を通して、震災を知っていただくきっかけになればと思いながら海外を回っていました。

“被災者ではない”という後ろめたさ

新海監督:地震が起きたときは東京でアニメーションを制作していました。僕自身が被災者ではないことに対して、「どうして被災したのが自分たちではなく、東北の人々だったのだろう」という後ろめたい気持ちがずっとありました。その思いの中で『君の名は。』という映画を作りました。この作品は「どうすればあの時、誰かに手を差し伸べることができたのだろう?」「もしも自分が被災者の人と入れ替わったらどうなんだろう?」ということを考えながら作った作品です。
ただ、それでも自分が被災者ではないという後ろめたさは拭いきれず『天気の子』という映画を作りました。それでも気持ちがクリアにはならず、今回の『すずめの戸締まり』が生まれました。
そんな中、ホタルの会の会長から「私は被災者だけれども、あのとき自分たちに手を差し伸べてくれた人、何かを祈ってくれた人、心を悼めた人、そのすべてが被災者と言えるのではないか」というお手紙をいただきました。そのとき初めて、自分では「自分は被災者だ」とは言えないけれど、でもずっと震災にとらわれ続けてきたんだ、と認めていただけたように感じました。そこで、ぜひ行きますとお答えして、今日ここへ来ました。

2年前にも訪れていた気仙沼


新海監督:気仙沼へは、2年前にロケハンをしに来ました。そのときは助監督の三木陽子さんの運転で来ました。終盤のシーンに登場する舞台候補の道の駅には、いくつか行ったのですが、最終的には「震災を経て新しい拠点となった」場所であることから“道の駅大谷海岸”を選びました。映画の最後に登場する山田町の織笠駅も、震災後にできた場所です。大谷海岸では映画の中にも登場したラーメンや、ソフトクリームも食べました。
ロケハン時はまだコロナ禍だったので、マスクをして色んな場所を回っていたのですが、宿泊したホテル磯村での夕食時、久しぶりにマスクを外して、向かい合って食事をすることができました。リアルにビールで乾杯したのはいつぶりだろう、と、解放感を味わったのを覚えています。
三木助監督:作中で登場する「ピーナッツクリームサンド」はロケハンの際には出会えておらず、後にこの土地ならではのものが何かないか……と探した際、一番良いのではと思い提案しました。
新海監督:今日、控室にたくさん置いてくださっていて、実は初めて食べたのですが、すごくおいしかったです。鈴芽に食べさせて良かったなと思いました。

震災をテーマにすることの葛藤

新海監督:この半年間で、自分の中でこの作品の印象がどんどん変わっていきました。
公開直後は「この映画を作って公開して、本当に良かったのか?大丈夫だったのか?」と気になっていました。エンターテインメント映画の中で描く震災を、見たくないと感じる方がいらっしゃるのは想像できました。自分がやったことが本当に良かったのかと何度も悩みました。
それでもこの半年間で色んな会場を回り、色んな方のお顔を見て、感想をお聞きし、世界中の3,000万人以上の方が観たという結果がついてきたことで、だんだんと自分の中で腑に落ちていく感覚がありました。少なくともこの映画を観てくださった方は「日本でこういうことが起きた」と知ってくださったわけなので、やらないよりは、やはりやってよかったんだと今は思えています。

映画の細部に馳せる思い


新海監督:映画は、1回観ただけでは気付かないところがたくさんあります。“閉じ師”が持つ鍵の形は、龍のデザインにしています。昔の日本人が地震の原因を考えたとき、「日本という国は、龍のような細長い巨大な生き物の上にあるから地面が揺れるのだ」と考えていた時代がありました。閉じ師はその龍をコントロールするために龍型の鍵を使っている、とイメージながらデザインしました。
初見で観た人はほとんど気付かないかもしれませんが、言葉ではなく映像の細部で表現していることもあります。上映はこれで終わってしまいましたが、これからDVDの発売や配信が始まるので、よかったらそんなディティールも見ていただけたら嬉しいです。
この映画を初めて観てくださった方がどのように感じたか、まだ不安な部分もありますが、やはりエンターテインメント映画として作ったものなので、少しでもドキドキしたり、ワクワクしたり、あるいは鈴芽と幼い頃のすずめのように、明日に向かって少し明るい気持ちになっていただけたら、作った甲斐があったなと思います。

【気仙沼スタッフ編集後記】
『すずめの戸締まり』で描かれた、気仙沼の「道の駅大谷海岸」。新海監督をはじめ、制作陣の皆様がこんなにも被災地に心を寄せ、想いを込めて描いてくださったことは感謝の念に堪えません。気仙沼スタッフは更に細かなこだわりを発見すべく、Blu-ray&DVDの発売を心待ちにしております!
ぜひ、映画を観て気仙沼が気になった皆様、これからご覧になられる皆様、舞台地巡りの際には気仙沼へも足をお運びいただけますと幸いです。
新海監督、この度はお忙しいところ本市へお越しいただきありがとうございました!

2023年9月20日(水)Blu-ray&DVD発売情報

世界中から注目されるアニメーション監督・新海誠の最新作『すずめの戸締まり』がBlu-ray&DVDで遂に発売!本編はパッケージの為に細部にわたり273カットをブラッシュアップ。更にコレクターズ・エディションには新規描き下ろしイラストによる3面デジパック他、原菜乃華、松村北斗によるビジュアルコメンタリーやメイキングドキュメンタリー等新撮映像や未公開映像を多数収録!

発売元:STORY inc./コミックス・ウェーブ・フィルム
販売元:東宝
©2022「すずめの戸締まり」製作委員会
公式サイトはこちら【映画『すずめの戸締まり』公式サイト


日本では観客動員数1,110万人、興行収入147.3億円を記録(2023年5月25日時点)、
『君の名は。』『天気の子』に続き、3作連続で1,000万人突破の快挙を達成!
第46回日本アカデミー賞では「優秀アニメーション作品賞」を、
更にRADWIMPS・陣内一真が「最優秀音楽賞」を、
宗像草太役・松村北斗が話題賞俳優部門を受賞。
勢いは国内に留まらず、中国・韓国では日本映画の歴代最高記録を更新!
中国では累計観客数2,329万人を超え、海外での累計動員数は3,533万人、
興行収入283億円を突破し、全世界興収430億円を記録しています。