教えて〇〇先生!

気仙沼のいいところ(在住27年、ベテラン移住者から)第4回

このコーナーでは、気仙沼の市民の方に先生としてご登場いただきます。今回の先生は「リアス・アーク美術館」の館長、山内宏泰さんです。気仙沼在住27年の「ベテラン移住者」である山内さんから「気仙沼のいいところ」をテーマに、気仙沼の魅力や、住み続ける理由について教えていただきます。
それでは山内先生、よろしくお願いいたします!

おわりに~あれから10年、愛しき気仙沼へ

いろいろなことがありましたが、気が付けば27年間、私は気仙沼で生きてきました。その時間の積み重なりの中にあって、在住17年目の2011年に経験した東日本大震災、平成の三陸津波による大災害と、その後の10年間はやはり特筆するべき重大事件、様々な人たちの人生を大きく動かした大事件でした。私自身も家を流され、大切なペットを亡くしました。家財もすべて失いました。亡くなった友人、知人もいます。本当にたくさんの大切なものをなくしました。生まれ故郷の石巻市も大被害を受け、私が少年期を過ごした界隈は何もなくなり、現在は宮城県の復興祈念公園となっています。40年の人生で積み重ねてきた記憶の拠り所、その半分以上がこの世から消えてしまったことに、当時の私は大変なショックを受けました。

▲2011年3月12日、気仙沼市赤岩港の様子。

東日本大震災発生直後、私はそれまで気仙沼で親しくしてきた信頼できる仲間たちと、このまちの将来について語り合いました。震災からの復旧、復興をどのように進めていくべきか、その結論を導き出すためには多くの時間と強い覚悟が必要とされます。それゆえ国が求めるような短期間でその答えを導き出すことなど普通はできません。ところが気仙沼の人々は違いました。集結した皆さんはまるで初めから決まっていたことのように、まちの未来像を共有していました。「これまでと同じように、海と共に生きていく」それが結論でした。気仙沼の人々には覚悟があります。これからも津波はやってきます。そうすれば再び大きな被害が出ることも分かっています。しかし、気仙沼の人々は決して海から離れようとしませんし、海を遠ざけようともしません。
2011年以降、気仙沼にはものすごくたくさんの人たちが出入りしました。よその土地の人たちが被災地の復旧、復興を支えるためにたくさん移住してきました。そしてそのほとんどの人たちは予定していた仕事を終えてこの地を去っていきました。「他に帰る場所がある人たちだから…私たちとは全然違う。私たちに他の場所はないから…」。在住13年目だった妻と当時よくそんな会話をしました。もちろん、支援者を非難するつもりなど全くありません。ただ、事実として、やはりその差は埋めようがありません。
震災発生から間もないころ、身近な者から「潮時じゃないか、気仙沼を離れてもいいんじゃないか」との言葉を何度か投げかけられました。それは決して悪いことではないし、恥じることでもない。自分の人生、家族の将来を考えて判断するべきではないかと。その通りだと思います。しかし私はそのような意見を全面的に、心の底から打ち消しました。「今、この状況でこの地を離れることなどできるわけがない」と。妻も私と同じ考えでした。


理由はシンプルです。あの人たちを置いて出ていくことなどできるはずがないからです。気仙沼という場所だからではなくて、気仙沼で苦楽を共にしてきた皆さん、そして今まさに最大の苦難に直面している皆さんを無視して、自分だけが出ていくことなどありえない。私は皆さんとともに気仙沼を守らなければならない、そう思っていました。


気仙沼というまちは、市民のおよそ7割が何らかの形で漁業、水産業などを介して海と関わりのある暮らしをしていると言われています。そういう意味では、私は残りの3割に属している人間かもしれません。つまり、私は気仙沼でなければ生きていけないタイプの人間ではないのです。それでも、私はこの土地を離れるつもりはありません。


海が無くても私は生きられます。しかし心が通じ合っている人がいない場所では生きていけません。気仙沼には価値観を共有できる素晴らしい人たちがたくさんいて、その人たちが心の底から愛する気仙沼というまちがある。まちの魅力は人の魅力です。

最後に、まだ気仙沼を知らない人たちへ一言。
気仙沼のいいところ、それは人です。あなたも気仙沼に住んでみませんか? 面白いですよ!

(おわり)
この記事は全4回に分けてお送りしました。
「気仙沼のいいところ(在住27年、ベテラン移住者から)」
第1回「気仙沼との出会い」
第2回「ディープな気仙沼への入口」
第3回「気仙沼の宝、ユニークな人々」

気仙沼の市民の方に先生としてご登場していただく
「教えて〇〇先生!」シリーズはこちらからご覧いただけます。

https://kesennuma-kanko.jp/category/marumarusensei/

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