「気仙沼の水産資源を新たな視点で活用しよう」という市の呼びかけで、気仙沼市内の事業者や個人が結集し、2013年11月に発足した「気仙沼水産資源活用研究会」。そこから誕生したのが水産加工品ブランド「kesemo(ケセモ)」です。「気仙沼から、もっと。」を目的に掲げ、気仙沼の豊かな水産資源を活用し、これまでにない高付加価値の商品開発を行ってきました。
今回は、kesemo構成企業・団体の中から、石渡商店さん、KESEMO MARINUS(ケセモマリナス)さん、いちからコーポレーションさん、kesemo事務局に、震災後のプロジェクトの立ち上がりや、それぞれの商品開発について、お話を伺いしました。
気仙沼でしか作れないものを
石渡商店 石渡久師さん(以下石渡さん):kesemo創設のきっかけは、東日本大震災によって気仙沼の事業者の納品先が他のところにとって変わられてしまった、いわゆる「棚が奪われた」ことなんです。しかし原因の根底には、そもそも「その商品が他の地域でも作れるものだったからではないか?」という課題がありました。そこで、気仙沼でしか作れないものを特化して研究開発や商品開発ができないかと、このプロジェクトが立ち上がったんです。
商品開発をする上では、人材も必要です。新しい仕事が生まれることで、人が流入してくる機会も増えます。若者が、気仙沼で生活し続けたいと思うような、あるいは気仙沼に帰って働きたくなるような新しい事業を創出していくことも、プロジェクトの目的の一つです。
始まりは「初めて」のことばかり
−kesemoでは、化粧品や、ペット食品、健康食品、調味料など、いままで気仙沼で作られてこなかったようなものを作られていますね。何を作るかはどうやって決めていったのですか?
石渡さん:最初は、水産事業者が集まって、気仙沼にはどういうものがあるんだとディスカッションすることから始まりました。たとえば「フジツボがくっつく力は接着剤に利用できないか?」とか「ウミウシから出る緑の液体は染料になるんじゃないか?」とか。アイデアはたくさん出しました。そこから、実現できるものをピックアップして、食品や、化粧品などのグループを分けて、この取り組みに参加したい人の公募をかけ、斎藤まゆみさんや、いちからコーポレーションさんなどにも入っていただきました。
商品開発に関しては、企業や、企業OBの方、大学の教授などに協力やアドバイスをいただき、紆余曲折しながら進めていきましたが、食品以外は扱ったことがなかったので、作れたとしてもどうやって売るのか、運営はどうするのか、といった問題もありました。
KESEMO MARINUS 斎藤まゆみさん(以下斎藤さん):私は今「MARINUS」という化粧品を販売していますが、kesemoに関わる前は、まるっきり別の事業をやっていました。誰が売るの?となったタイミングで「じゃあ、私がやります」と手を挙げて、化粧品事業をゼロから始めることを決めました。
「もっと」活用し、価値を高める
−いまでこそ「SDGs」が大変注目されるようになってきましたが、kesemoの取り組みはずいぶん前から「未利用資源を活かす」ことに着目して始まっていましたよね。
斎藤さん:MARINUSに使われているコラーゲンは、サメのコラーゲンなんです。フカヒレを獲るのに「ヒレだけ切り取って捨てているのでは」という間違った認識をしている人たちもいますが、そんなことはありません。気仙沼で漁業に携わる立場からすると、資源を無駄なく使うという意識は、昔から進んでいたように思います。
石渡さん:もともと、サメは気仙沼に水揚げされた後、ヒレはフカヒレに、身は蒲鉾になり、飼料になったり、肥料になったりと使われていました。そこを「もっと」活用しましょう、価値をあげていきましょうと、サメのコラーゲンを使った化粧品が作られました。
例えば、新しく開発した「umino pet」というペット向け商品は、刺身にして食べても良いくらいの新鮮なサメ肉を使っているんです。「ペットのものだから、普段捨てるようなものを利用している」と思われることもありますが、そうではありません。「未利用のものを使う」というよりは「まだ知られてない価値を高める」取り組みをしているのだと思います。
ただ、開発には莫大な研究費がかかるので、1企業で取り組むには難しい課題にも、kesemoであれば挑戦できる。そういった場になっています。
−昔から、水産資源に関心の高い気仙沼が「もっと活用する」と考えたものなんですね。MARINUSの化粧品についてお聞きしますが、やはり、ほかにはない「サメのコラーゲン」を使用しているところが魅力なのでしょうか?
斎藤さん:そうですね。他では、豚や牛など動物のコラーゲンを使うのが一般的ですが、気仙沼の特産品のサメからコラーゲンを抽出しています。ミストをシュッシュッと手に出しますよね。そこから自分の顔に持っていく時、他の化粧品を使うと、垂れてきてしまうんですよ。でも、MARINUSの化粧水 マリナスミストaはとろみがあって、手を逆さにしても垂れないんです。それくらい吸い付いて、肌馴染みがいいんです。
−密着している時間が長くなれば、保湿にも良さそうですね。
斎藤さん:はい。そうなんです。あとは、気仙沼産のユズ、ハマナス、地元の酒蔵の酒粕を使っていて、気仙沼産のものを使っているところもポイントです。ぜひ使ってみてください。
気仙沼から産まれたものを地元のこどもたちに
−kesemoの商品では、調味料などが販売されているのを見かけますが、それらはどんな経緯でつくられたのでしょうか。
Kesemo事務局 関さん(以下関さん):調味料のなかで、一番人気なのが「ほやドレ」というホヤを使ったドレッシングですね。「ホヤ嫌いでも食べられるドレッシング」をコンセプトにして、地元企業と、大手食品会社に勤められていたの協力で開発しました。
私は内陸の出身で、移住するまではホヤを食べたことがなかったのですが、食べてみたらすごくおいしい。けれどもホヤは、地元のこどもたちでも食べたことがない子が結構いるという話を聞いて、衝撃を受けました。こどもたちにも食べてもらえるよう、食べやすさを重視して作られたのが、このドレッシングです。クラウドファンディングを実施して、学校給食にもほやドレを使ってもらうことができました。
いちからコーポレーション 藤代さん(以下藤代さん):ほやドレに関しては、震災復興で応援してくださった調味料製造会社の元製造部長がkesemoのアドバイザーとしてレシピ開発に協力してくださり、私が繰り返し試作をして、商品化に至りました。kesemoの商品は、1つ目に「漁師の万能タレ」を作り、ほやドレで2つ目です。ほやドレには、ホヤエキスを使っています。
やりたかったことにチャレンジしよう
−食べてみましたが、サラダはもちろん、カルパッチョのようにしてもおいしいですね。このような商品を作られる前に、何かご経験があったのですか?
藤代さん:いや。ないです。もともとは全く異なる仕事をしていました。ちょうど震災の時に会社を退職して、何かをやろうと思っている時に、新聞でkesemoの取り組みに参加できる公募を目にしました。入ってみたら企業の方ばかりで、私のような素人の個人が入るところじゃないなと思ったのですが……みなさんに助けていただいてここまでやっています。
−「やってみよう」と思ったのは、震災が一つのきっかけになったのでしょうか。
藤代さん:地震の時に、高台に避難しながら、船や、家や車……いろんなものが流れていく光景を見ていました。その時に、俺たちは生き残ったんだと思いました。みんな生きたかっただろうなと。自分はその時60歳でしたが、あと残りの人生をどう生きたらいいかと考えるようになり、今までできなかったこと、やりたかったことにチャレンジしようと思いました。
それが、私の場合はこういう形になったんです。10年近くやってきて、いろんな方に支えられています。始めた当初は、携帯もパソコンも操作できませんでしたから。これからも一生懸命おいしいものを作って「おいしかったね」と言われたら嬉しいです。
−藤代さんのことを、地域おこし協力隊でやってきた関さんがサポートしているんですね。
関さん:はい。私も前職はパソコンを使う仕事ではなかったので、この事務局に入って勉強しながらやっています。
−関さんは、内陸にお住まいだったとお聞きしましたが、どうして気仙沼に移住したのですか?
関さん:震災の時は、仙台にいたのですが、当時はまだ中学生で、何か助けになることができるのか、どうしたらいいかもわかりませんでした。
2019年、気仙沼に大島大橋がかかった頃に、知り合いが気仙沼に就職することになって、気仙沼に遊びに来たことが移住のきっかけです。気仙沼は人も良いし、すごく素敵なところだなぁと思いました。
−そういったご縁で、今この商品があるんですね。調味料で開発中のものなどもありましたら教えてください。
関さん:わかめを使ったほやドレ第二弾も発売しようと開発中です。それも藤代さんのところで作る予定です。
藤代さん:絶賛開発中です!
新たな気仙沼の価値を創造すべく、今も挑戦を続けているkesemoのみなさん。さまざまな業種、年代の方が関わり合いながら、それぞれができる仕事を担って、開発が進められています。
震災をきっかけに誕生したこのブランドが、これからの気仙沼の人や街を輝かせていくことに希望を感じました。
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▼kesemo 商品情報ページ
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